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中国の新たな対抗制裁制度の内側:国務院令第834号・第835号が企業に与える影響

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中国では現在、企業のコンプライアンス部門が実施する外国制裁への対応について、中国政府がその実施を阻止したり、関係企業をリストに指定したり、さらには訴訟の対象としたりできる制度が整備されつつあります。こうした環境変化に対応するため、企業はサプライチェーン・デューデリジェンスの方法を見直す必要があります。中国国務院はこのほど、外国企業が中国国内でサプライチェーンを調査する方法と、中国企業に対する欧米諸国の制裁措置の適用範囲について、従来のルールを大きく変える2つの規定を公布しました。

  • 国務院令第834号「産業チェーン・サプライチェーン安全保障規定」(2026年4月7日施行):サプライヤーに対するデューデリジェンス、監査、中国国内での情報収集に対する規制当局の監視を強化します。
  • 国務院令第835号「外国による不当な域外管轄に対抗するための規定」(2026年4月13日施行):「悪意のあるエンティティリスト」を創設するとともに、外国の域外適用措置によって損害を受けた中国の企業や個人が、民事訴訟を提起できる法的根拠を設定しました。

これらの規定によって、中国から製品や部品を調達する企業に対する欧米規制当局の要求が緩和されるわけではありません。一方で、中国国内での実地調査には、これまで以上のリスクが伴うようになります。これを受け、企業登記、株主・実質的支配者情報、貿易データ、裁判記録など、公的記録に基づいてサプライチェーンを可視化することの重要性が高まっています。

中国の新たな対抗制裁措置の内容

国務院令第834号(産業およびサプライチェーンの安全保障)

第834号の第13条は、中国国内で行われるサプライチェーン関連の情報収集を、中国の既存のデータ安全保障法制および国家安全保障法制の管理下に置いています。また、第15条では、中国のサプライヤーに不利益を与えているとみなされた外国の組織や企業に対して、中国政府が対抗措置を講じることを認めています。このため、中国国内でサプライチェーン・デューデリジェンスを実施している外国企業には、直接的な影響が及ぶ可能性があります。

国務院令第835号(外国による不当な域外管轄への対抗)

第835号は、悪意のある事業体リスト、禁止執行命令の仕組み、および外国の域外措置の実施によって損害を受けた中国企業に対する民事訴訟の根拠を定めています。これは、制裁、輸出規制、または強制労働の遵守によって中国の取引相手に悪影響を及ぼす企業に影響があるものです。

第834号は、正当なサプライヤー・デューデリジェンスを全面的に禁止するものではありません。しかし、第13条は、外国企業などが中国当局の許可を得ずに、中国国内でサプライチェーン調査や情報収集を行うことを禁止しています。したがって、今後の重要な論点は、どこまでが許容されるデューデリジェンスで、どこからが禁止される情報収集に当たるのかという境界線です。2026年6月下旬には、中国商務部が「産業・サプライチェーン安全調査措置」を公布し、商務部が調査を担当する機関であることが明記され、文書の確認、質問票、現地調査などの手続きが規定されました。今後、実際の運用や執行事例が積み重なるにつれて、許容される調査と禁止される情報収集の線引きが明確になっていくと考えられます。

実務への影響と具体例

第835号に基づく悪意のあるエンティティリストには、記事掲載時点では、まだ民間企業は追加されていません。しかし、中国政府はすでに同制度の運用を開始しています。

2026年5月15日、中国司法部と商務部は、EUの外国補助金規則に基づくNuctechへの調査について、不当な域外適用措置に該当するとの判断を示し、中国国内の企業や関係者に対して調査への協力を行わないよう求めました。また、その数日前の2026年5月2日には、中国商務部が、イラン産石油取引との関係を理由に米国が中国企業5社へ科した制裁について、中国の企業や個人がこれに従うことを禁止する「阻断禁令」を発出しています。

これらの措置はいずれも、現時点では民間企業そのものではなく、外国政府や規制当局、その措置を対象としています。しかし、中国政府がこの制度を迅速に活用する意思を持っていることを示しています。

制裁対応とサプライチェーン可視化業務への影響

中国の取引先との関係を持つ多くの民間企業にとって、現時点でのコンプライアンスリスクは、主として間接的なものです。第834号と第835号が主に対象としているのは、中国国内で行われる実地活動であり、中国国外で行われる活動に対して、これらの規定を適用できる範囲は限定されているため、中国国外で事業を行い、公開情報や公的情報を利用しているデータプロバイダーは現時点では対象外と考えられます。

つまり、企業の担当者がすでに利用している「企業登記データ」「所有関係に関するデータ」「貿易データ」などについては、これらの規定によってアクセスが妨げられる可能性は低いと考えられます。

一方、中国国内に事業拠点を持っている場合や、自社のデューデリジェンス・プログラムが「中国国内でのサプライヤー訪問」「中国国内でのアンケート調査」「中国国内の第三者調査会社の利用」に依存している場合は、そのリスク特性が変化しています。該当する企業は、こうした活動を中国法の専門家とともに見直す必要があります。

対抗措置の枠組みは、これとは別に「逆方向のリスク」を生み出しています。企業のコンプライアンス・プログラムが、中国の取引先に対して欧米の制裁、輸出管理、強制労働対策を「実施」すればするほど、問題があると判断して取引を停止したサプライヤーが、中国政府による対抗措置の根拠となる可能性が高まります。こうした対抗措置には、悪意主体リストへの指定も含まれる可能性があります。

もっとも、最初の執行事例が対象としたのは民間企業ではなく、外国政府および外国の規制当局でした。また、中国国内に拠点を持たない企業に対して、中国政府が実際に規制を及ぼせる範囲は、依然として限定されています。これに関して最も明確な兆候はNuctechに関する判断です。この事例では、中国国内に保管されている文書やデータを提出するよう求めた外国規制当局の要求を阻止するために、835号の制度が利用されました。これはまさに、中国国内で行われる情報収集の一種であり、834号の施行によってリスクが高まっている活動です。

企業が重点的に取り組むべきこと

中国国内でのデューデリジェンス手法を再評価する

中国関連のコンプライアンス・プログラムが、サプライヤーの訪問、現地監査、中国国内で実施する質問票などだけの場合、その手法を見直す必要があります。自社のプログラムで引き続き合法的に実施できる活動について、中国の現地弁護士に相談する必要があります。また、デューデリジェンス業務のより多くの部分を、中国国外に所在するデータソースへ移行すべきかについても検討する必要があります。

サプライチェーンにおける国有企業との関係を明らかにする

835号は、サプライヤーが中国政府による所有関係や防衛産業とのつながりを持つ企業に、現実的なリスクを及ぼします。サプライチェーンのどこに国有企業との関係が存在するかを把握することは、対抗措置のリスクを評価するための基礎となります。また、中国政府から直接的な指示を受ける可能性のあるサプライヤーを特定するうえでも重要な活動です。

その他の調査では、企業登記に基づくデータ可視化を積極的に活用する

中国の企業登記、実質的支配者・受益所有者に関する情報開示、税関記録、裁判記録は、834号および835号によって制限されていません。これらの情報から、企業の所有関係、管轄地域、どの程度リスクにさらされているかについて、必要な情報を引き続き把握することが可能です。また、こうしたデータを利用するために調査担当者が中国国内に入る必要はなく、企業登記などに基づく調査は、834号が主な対象としている活動の範囲外に位置づけられます。

まとめ:中国の新たな対抗制裁制度が意味すること

企業は今後も、サプライチェーンにどのような企業が含まれているのか、その企業を誰が所有・支配しているのか、制裁、強制労働、国家による指示・統制への関与がどこに存在するのかを把握する必要があります。企業登記や税関記録、裁判記録などの公開・公的情報は、これまでも信頼性の高い情報源でした。中国国内での実地調査のリスクが高まった現在、こうしたデータへアクセスし、中国国内の調査活動に依存せずにサプライチェーンを可視化することは、これまで以上に重要になっています。

※なお、この記事は情報提供を目的としたものであり、法的助言を提供するものではありません。中国国内で事業を行う企業や、中国から製品・部品を調達する企業は、834号および835号による自社への具体的な影響について、専門の法律顧問に相談することを推奨します。

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